幾何学は数学における一分野であり、その応用範囲は技術分野に関わる形態の構造や空間の構成・把握に及んでいる。また、その発展は文明発祥以来、建築・彫刻・絵画等の芸術の分野にも影響を与えてきた。幾何学の中でも特に立体を扱った分野を多面体幾何学というが、それら多面体構造の基軸は正多面体いわゆるプラトン立体に基づいている。
幾何学の基礎であるユークリッド幾何は「原論」全巻13巻にまとめられているが、最後の3巻は立体幾何に当てられており、その到達点はこの正多面体の解明に向けられている(文献1参照)。
今日、多面体幾何学を応用した技術は、大は建築物から小は分子構造模型に至るまで様々な分野において用いられている。
それらについて触れる前に、先ず、多面体幾何学の発展段階についてその歴史的経過を辿って説明しておかなければならない。それによって表面的な理解にとどまらず、より本質的な核心が見えてくるであろう。
正多面体はプラトン立体とも言うが。その由来は、古代ギリシャ時代、プラトンが彼の著書の中でその多面体について扱っているからである。よって以下、プラトン立体という。
その後、この立体はユークリッド幾何「原論」で証明が行なわれ、更に後の時代、アルキメデスはプラトン立体から規則的に変形した立体群を発見することになる。
それらの立体は彼の名にちなんでアルキメデス立体といわれている。この立体は、二種類以上の正多角形が各頂点の周りに集まる立体であると同時に、プラトン立体と同じ回転対称性の性質を有しているものである。
今日このアルキメデス立体は、多面体幾何学の規則性に基づく分類によっては、半正(Semi-regular)多面体若しくは準正(Quasi-regular)多面体と呼ぶこともあるが、以下、アルキメデス立体という。
紀元前後から中世にかけては、様々な科学技術同様、この学問も際立った発展は見られない。
その後、アルキメデス双対立体及び星型正多面体などが中世以降徐々に発見されることになる。ここで双対立体とは、元の立体の頂点の数と面の数を互いに入れ換えた立体のことを指していう。
近世を迎えては、その双対立体の中の菱形30面体が天文学者であり数学者であるヨハネス・ケプラーによって発見されている。そして近代に至るまで、多くの数学者・科学者によってその法則や証明が行なわれてきた。
現代においてはH・S・M・コクセターを頂点とする幾何学者達によって多胞体をはじめ、星型多面体や菱形多面体等が研究されている。そして今日、菱形多面体に関してはゾーン多面体という範疇を作り出し発展を見せている。また従来、多面体を解釈するには面構成や枠構成によって行われて来たが、線材や軸材を用いた構成によって解釈する方法も見出されている。(文献2・3及び4参照)
【文献1】「ジュニア数学百科」監修:馬場良和、出版社:大竹出版、ユークリッド幾何学p404
【文献2】「多面体と建築」著者:宮崎興二、出版社:彰国社、多面体の歴史pp.1-26、
【文献3】「建築のかたち百科」著者:宮崎興二、出版社:彰国社、(星型多面体pp68-70、アルキメデス立体及びその双対立体の外観一覧p52、線材・軸材による構造pp94-95、星型多面体状の照明器具p68、ゾーン多面体pp.88-91)
【文献4】「正多面体を解く」著者:一松信、出版社:東海大学出版会
幾何学構造の変容